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ビジネス書・相場関係書に関するファンドマネージャーの備忘的メモ

ゲーム理論はアート【☆☆】

ゲーム理論がどのように社会に役立つかをイメージさせてくれる本

囚人のジレンマ」で話が止まっている方は読むと何がすごいのかわかる 

 

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囚人のジレンマ」は知っていても、じゃあゲーム理論ってどんな風に世の中に使われるのかがイマイチピンとこない。

そんな人のために書かれた本。

まずはゲーム理論とは

ゲーム理論の真骨頂は、日常と空想のはざまで仮説的モデルを思いつこうとする、その創造的、芸術的行為にある。

うーん、これでは全くよくわからない。

具体的には・・・

例えば、金融市場のバブルと、職場のハラスメントは、まったく異なる次元の問題であるにもかかわらず、まったく同じ仮説的モデルによって説明される。悪夢のような全体主義と、善意にあふれるはずの貧困救済は、まったく異なる次元の問題であるにもかかわらず、まったく同じアイデアにもとづく仮説的モデルによって説明される。

どうやら、仮説的モデルというのがキーワードとなりそう。

そして、それを元にそれまでは全く違うと思われていた現象が同様のモデルで説明が可能だということになる。

 

では、仮説的モデルとは何なのか。

19世紀後半に活躍したアメリカの哲学者チャールズ・サンダース・パースによると、新しいアイデアを思いつく作法は、仮説形成推論(abduction)といい、演繹的推論や帰納的推論といったおなじみの推論とは区別されるそうだ。

仮説形成推論は、既存のモデルに反する出来事がある場合、その出来事を説明できる新しいモデルを思いつくための推論のことである。この仮説形成推論こそが、社会科学を創造的行為、芸術的行為にまで高める原動力になる

演繹的でも帰納的でもない推論方法とのこと。

新しいモデルを仮説で考え、そこから推論するということのようだ。

 

ゲーム理論の仮説的モデルは、入札制度(オークション)、証券取引ルール、マッチングのルール、組織のガバナンス、情報システムなどといった、社会のしくみを支える制度を、具体的にどのようにデザイン(設計)したらいいかについて、基本方針を提供してくれる。

つまり、ゲーム理論のモデルを利用することで、社会の制度設計を理論的に行える。

ルールを少しだけ変更することで、いらないナッシュ均衡をすべて排除でき、しかも望ましいナッシュ均衡だけを残すような、うまい工夫はないだろうか。これが、ゲーム理論家の目指すべき、ここでの目的になる。

ゲーム理論の目的は、望ましいナッシュ均衡に持っていくための制度設計を行う学問ということ。

そのために、現在の社会に生じる様々な事象のモデル化を試みている。

 

本の中では様々な具体例でその辺りを説明。

  • オークション
  • バブル
  • 腎交換ネットワーク
  • 高頻度トレード

 などなど

それらについて、制度上工夫することで望ましい方向に持っていけるとしている。

このようなちょっとした工夫は、消費者の選択のメニューを、無理に限定したり、消費者を強制したりしてない。ちょっと肩を一押しされるだけで、消費者は、より良い選択へうまくコントロールされる。このような工夫のことを、リチャード・セイラーに代表されるようなタイプの行動経済学者は、「ナッジ(軽く肩をつくこと、nudge)」と呼んでいる。

特に印象深いのは、哲学者であるベンサムが考案した「パノプティコン」とい一望監視システムの話。

パノプティコンでは、監視人1人で一度に大勢を更生できる。しかも、監視人は、こっそり遊びに出かけても、囚人にはばれないのだからヘッチャラだ。だから、囚人に活動の自由を十分与えておいても問題なしである。強制の弱い、「ソフトな」パターナリズムでも十分に効果ありなのだ。

構造としては、中央に監視部屋が設置されており、囚人が入る独房はそれを取り囲むように円形に設置される。

ただ、囚人からは監視人が光の入り方により見えなくなっており、囚人は見えない監視人にいつも監視されていることになる。 

パノプティコンは、国家が、最小限の強制によって、国民を規律正しい行動に導くための、仮説的装置になる。何も刑務所に限ることはない。学校、病院、職場、あらゆる「公共の場」すべてに「パノプティコンパラダイム」はあてはまる。

気付いてみれば、現代は、監視機能のついた携帯通信の普及や、町中に監視カメラが設置されているなど、まるで全体がパノプティコンのような「監視なき監視社会」だ。

まさに中国で犯罪が減少していることがそれに当たる。

ちょっと怖い気もするが、国家を運営する上で、ゲーム理論的な考えによる管理は絶対に必要になるのだろう。

管理される側としては、そのような仕組みをちゃんと理解した上で生活することが国家に「操られない」ためには必要になりそうだ。

 

最後に、「 アカロフのレモン」について。

「レモン」の反対は「ピーチ」。

 「レモン」は、皮が厚くて見かけだけでは中身がわからないこと

 「ピーチ」は、痛むとすぐに皮が黒ずむため、中身がすぐにわかること

から来ているとのことでした。

勉強になりました。

詳しくは、こちらに載ってます。

 

【まとめ】

ゲーム理論は色々なところで解説されていて、分かったつもりになるが、実際は全然わからない典型みたいな話。

そのような中で、具体例を元にわかりやすく説明している。

ゲーム理論の導入本としてとても良い本だと思います。