グローバル・バリューチェーン【☆☆】
iPhoneはどこで作られたものか?すでに国で語ることは難しくなっている
「GVC(グローバル・バリューチェーン)」をキーワードに現在の米中摩擦を含めた新南北問題を明らかにする
国際分業による効率化とそのポジション取りにおける各国のエゴが衝突する
グローバル・バリューチェーン分析とは何か。
それは国際分業体制が発達するなか、製品に対する付加価値を国毎に分配する手法。
筆者はiPhoneを例にとり、以下のように各国の取り分(付加価値)を計算している
1台のiPhoneにつき米国の企業が約332ドル、日本や韓国、ドイツなどで約162ドル、そして中国は、当時、世界最大のiPhone生産国/輸出国であったにもかかわらず、国全体でたった6・5ドルしか受け取っていない
「生産国は中国」と考えられていたところからは大分違った様相といえる。
例えば、iPhoneについては、その生産工程は以下の通り
商品企画・デザイン(米国)→研究開発(ドイツ)→部品生産(韓国)
→組立加工(中国)→物流(日本)→営業・販売(米国)
→アフターサービス(米国)
この中で、生産工程の上流と下流に付加価値が大きく、中流は単純労働中心で付加価値が小さくなる。
これを、「スマイルカーブ」という言葉で言い表している。
そして、この生産分業のシステムについて、以前はグローバルで協調ゲームが進展した。
先進国は生産機能の国際的な再配置によって企業の生産性を伸ばし、途上国はそこへ労働力を組み入れることによって経済発展の機会を得る。そこでは、両者の間で明確なすみ分けが行われていた。
しかし、現代では低成長が続く中で
先進国は国内の雇用機会が安価な労働力を求めて途上国へ流れ出ることを恐れ、一方の途上国は自国経済がサプライチェーンの低付加価値領域へ閉じ込められることを懸念している。
その結果、、、
一部の先進国では保護主義が台頭し、対して途上国では過激な産業高度化政策が推し進められている。かつてはきれいなすみ分けができていた国際分業体系において、それぞれが支配を目論むサプライチェーン上の部位が徐々に重なり合い、互いの領域を浸食し始めているのである。
としている。
つまり、先進国、新興国ともに分業によるメリットを感じつつも、パイが小さくなるにつれ、それだけでは収まりきれなくなって来ていると言える。
その象徴が米中貿易摩擦と筆者は言っている
それは、過去の日米貿易摩擦とは明らかに違う
いわば先進国どうしの戦いであった日米貿易摩擦と異なり、安い労働力を武器とする開発途上国との間で突如立ち現れた非対称的な対立構造、これこそが今日における米中貿易不均衡問題の核心なのである。
トランプの政策はまさにここを突いている。
ラストベルトに取り残された人々の不満を軸に保護主義が台頭しているということ。
一方、中国は5Gやロボットの領域で一気にスマイルカーブの上流を狙おうとしている。
それを阻止すべく、米国はファーウェイやZTEに規制をかけ始めている。
このような流れでグローバル・バリューチェーンの重要性を示した上で、産業連関表を使った具体的な分析事例を紹介している。
マーケットとの関連でいえば、「付加価値為替レート」という言葉が興味深い。
それは、一般的な実質為替レートが生産相手国だけで算出されているのに対し、その裏で付加価値をつけている国に対しても加重することになる。
日本の場合、多分ドルのウェイトがさらに上がるのだろう。
また、アジア諸国に大量の部材や工作機械を輸出している日本は、付加価値ベースで対米黒字がさらに積み上がって見えることになるのだろう。
最後に、今後の新興国の発展において、中国型の発展、つまり安い労働力を使ったグローバル・バリューチェーンへの参入が難しい時期に来ているとの話が面白い。
理由は、
- 生産のオートメーション化
- 消費嗜好の多様化
- 環境問題への高まり
が挙げられている。
つまり、安い労働力だけを使ってスマイルカーブの中流領域に入ることすら難しい状況という意味だ。
「中進国の罠」から抜け出すことができず、エコシステムへの仲間入りを果たせなかった開発途上国は、先進国との技術リンケージが途切れ、場合によっては低開発国へと後戻りするかもしれない。安価な労働力がもはや競争優位性として機能しなくなったとき、先進国からすれば、エコシステムの「外部」とつながりを保つことの意味が薄れるからである。
この問題の解決策について、筆者は未だ解答を見出していないとのこと。
貧困が減少していると言った「ファクトフルネス」も今後は変わるかもしれない。
【まとめ】
少し難しい本でしたが、「GVC(グローバル・バリューチェーン)分析」は、今後キラーワードになるとの思いを持たせるに十分な内容でした。
米中関係やiPhoneを題材に、「今」を意識して興味深くまとまっていると思います。
本文でも紹介した、付加価値為替レートは興味深いです。
算出方法やら実際の数値やらはよくわからないのは残念ですが、新しい概念として今後注目していきたいところです。
さっと読める本ではないので、少し腰を落ち着かせて読むことをお勧めします。