生き残りのディーリング 矢口新【☆☆☆】
証券会社を渡り歩いた筆者によるディーリング哲学を伝える本。
投資ではなく投機のご作法だが、投資をする上でも必要な考え方も多い。
負けが込むと人は本を読みたくなるが、まさにその時に読むべき本。
「ショートが溜まっている」という言葉の意味合い、説明できるでしょうか?
「生き残りのディーリング」という題名の通り、ディーリングつまり投機家に対する哲学を書いた本。
繰り返すが、投資ではなく、投機について書いている。
以下は、投機と投資の違いについて述べた部分。
投機では損切りなどの取り返しがきく、ボラティリティの大きなもののほうがリスクは少ないのです。すなわち、投資ではボラティリティの大きなものは不適格とされ、投機はボラティリティを追い求めます。そして、世の中で理論価格などと呼ばれているものは、すべて投資に対する助言で、投機にとって役立つのはチャートや出来高などのテクニカル要因です。
まさに為替の世界。
理論価格から最も遠く、ボラティリティがあるほど収益を稼ぐ確率が上がる世界。
4章の価格変動の本質はとても好きな部分。
まずは3章にあるこの部分。
市場では、必ず売り買い同数であるにも関わらず、「ショートが溜まっている」など頻繁に言われる。
この辺り、初心者が最初に不思議に思うところだと思うが、その辺りにも答えている。
買い手と売り手とは常に同数です。あるのは売買に至る必然性や、意欲の大小だけなのです。…これをポジションの保有期間という観点からみると、買い手が長く保有するのに対して、売り手は瞬時にカバーしています。皆(量が大きい)が買いたい相場で、売り手がすぐにカバー(保有期間が短い)すれば、価格は上昇するしかないでしょう。
つまり、、、
価格の変動要因を突き詰めていくと、価格はポジションの保有期間によってのみ変動することが分かります。
この部分はとても大事だと思う。
ディーリングを始めると、なんとなく先輩が使っていた言葉をそのまま使って分かったつもりになることが多い。
つまり、意味合いを理解しないで、定石・定理をそのまま使ってしまうことが多い。
例えばチャートなんかはその典型だと思う。
この辺りを確りと意味合いを説明してくれる本。
また、リスク管理については、非常に重要視している。
ディーリングルームなどで、損に耐えて苦しんでいる姿は、傍目には美しいかもしれません。重要な仕事をしているようにも見え、忍耐強く頼もしい人という印象すらあるものです。ところが、実際には大事な決断を先送りにしている思考停止状態にすぎません。
なかなか手厳しい…
勝率だけを上げたいのなら、実は簡単に9割以上の勝率があげられます。相場は常に上下動を繰り返していますので、逆に行けばじっと持ちこたえる。またはコストダウンを狙ってなんぴんする。そして利が乗れば素早く利食う。価格波動をかんがみれば長期間にわたって一方通行の相場などそれほどないと分かりますから、このやり方で9割の勝率が確保できます。
勝率は高いのにドローダウンが大きいというのはよくある話
筆者は3勝7敗を目指せという。
これが簡単にみて難しい。
7敗に心が耐えられなければいけない。
【まとめ】
良い本だと思います。
人によっては、投機に偏りすぎているため、ついていけない人も多いかも。
特に、株の長期投資(バリュー投資)の人から見たら、多分理解できなのではないだろうか。
それでも、市場に対する感覚やチャートへの付き合い方については参考になる。
損切りに対する姿勢は、投機家も投資家も通じるところがあり一度は読んでおいて損はない。
好き嫌いが分かれる本かもしれないが、手元に置いておけば、ある時急にグッとくるのではないだろうか。