Price is what you pay. Value is what you get.

ビジネス書・相場関係書に関するファンドマネージャーの備忘的メモ

生涯投資家【☆☆☆】

言わずと知れた日本のアクティビスト第一人者

当時の事件を振り返りながら日本についてアツく語った本

当時の事件を生々しく語っている

当時を知っている人も、知らない人もこの本で日本の歴史の1ページを勉強できる

 

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出だしからなかなか凄まじい。

私が自分で株への投資を始めたのは、小学三年生の時だ。ある日、父が百万円の帯付きの札束を置いて、こう言った。「世彰は、いつも小遣いちょうだいと言うが、いま百万円あげてもいい。ただしこれは、大学を卒業するまでのお小遣いだ。どうする?」

帯付きの札束を小学生に見せるなど、まずは考えられない。

そしてそれに対する小3の村上さんの返しも凄い。

「お父さん、大学卒業までだったらあと十四年もあるから、百万円じゃ少ないよ。」

この教育方針がその後の村上さんを形作ったのだろう。

 

 

そして、村上さんは自らをバリュー投資家といい、特に成長株であるIT企業への投資は躊躇してきたといっている。

この辺りは、バフェットとも通じるところがあるのだろう。

 

そして、上場株式会社に対する考え方はいたってシンプル

上場には二つのメリットがある。ひとつは、株式の流動性が上がること。すなわち、株式が換金しやすくなることだ。もうひとつは、資金調達がしやすくなることだ。逆に言えば、この二つが必要ない場合には上場する必要もない、と私は考えている。

メリットとデメリットを考えて、デメリットが大きい場合はMBOなどにより上場をやめるべきだと説く。

その上で、日本の経営者が財務諸表に詳しくないことに驚いているのは印象的だった。

財務数値についてよくわかっていない経営者が、予想に反して多かった。売上や利益の収支は把握していても、その積み重ねであるバランスシートについてはあまり気にしておられず、数字が頭に入っていないのだ。…むしろ私のほうがその会社の財務に詳しい、という場面が多々あった。

 サラリーマン経営者が多いのでしょうがないのかなと思ったり。

何れにせよ、日本の経営者が自社の会計を理解すればもう少し日本の企業も変わるのではないかと感じました。

 

本の中盤は、村上さんがこれまで出会ってきた企業・人物・投資話が続き、最も生々しいところに入る。

個人的に興味深かったのは、福井元日銀総裁に関するコメント

福井俊彦・元日銀総裁も、子ファンドに出資してくれた一人だ。私も関わっていた富士通総研の理事長を務めていた福井氏には、とてもかわいがっていただいた。ファンド設立時に「少ないけれども」と言って投資していただいただけでなく、アドバイザリーボードのメンバーにもなっていただいた。そればかりか、会社設立に際していろいろな相談に行けるようにと三井住友銀行西川善文頭取、安田信託銀行の笠井和彦会長など、銀行の経営者を四名も紹介してくださった。

当時、色々とあったことを覚えています。

ただ、福井さんも村上さんとは懇意にされていたのですね。

日本にコーポレートガバナンスが必要との考えになれば、村上さんの考えに好感を持ったとしてもなんら不思議ではないように思います。

 

その他、本の中で触れられている投資話は以下の通り

  1. 東京スタイルとのプロキシーファイト(2002年)
  2. ニッポン放送への投資とフジテレビ(2003年)
  3. 西武鉄道(2005年)
  4. 阪神鉄道と阪神タイガース(2005年)
  5. IT企業(光通信USENサイバーエージェント楽天ライブドア

 この本のメインディッシュです。

ドロドロとした世界。色々と想像たくましくさせて読ませてもらいました。

 

最後に日本企業は今後どうすれば良いか熱く語っています。

ROEを上げる方法は、自己資本を減らすか、利益を上げるかの二つにひとつしかない。前章で述べたように、日米の比較をしてみると、自己資本の金額はそれほどかけ離れた水準ではない。にもかかわらず、日本企業の当期利益はアメリカ企業の二分の一弱で、ROEは二分の一強にすぎない。過剰な自己資本によって、ROEが引き下げられていることを意味している。

株主還元の原資となる二百兆円は、こうした持ち合い株式を百兆円分売却し、加えてこれから三年間の当期利益百兆円を、株主へ一〇〇%還元すると仮定する。すると、バランスシートは百兆円ほど圧縮され、自己資本は小さくなって、ROEは一〇%前後まで改善する。

キーワードは、コーポレートガバナンスROE経営。

ただ、単純な「自己株買い」や「配当増」を行えとはいっておらず、「M&A」「設備投資」「人材雇用」「昇給」等、なんでも良いから利益を上げる方法も考えろと 語っています。

 

最後に少しだけ、失敗した投資についても

「中国のマイクロファイナンス」「ギリシャ国債

この二つは大損したそうです。

 

【まとめ】

これまで「生理的に受け付けない」との理由で倦厭していましたが、読んでとても良かったです。

当時は、マスコミに叩かれまくって、すっかり悪の権化といった印象でした。

コーポレートガバナンス」は、今でこそ一般的な言葉ですが、当時は「ハゲタカ」という言葉が先行していて、決して良いイメージではなかったかと思います。

若干美化している部分はあると思うのでその部分は割り引く必要があると思います。

それでも当時先端的な投資を行っていた方であることは確かだと感じました。

翻って、今の日本はまだまだですね。

 

ちなみに、個人的には米国のROE経営は低金利だから成り立った世界かなと。

米企業は大分レバレッジをかけているの、どこかで反動が来そうな予感がしています。