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China2049【☆☆】

 米国の対中政策の一線を担っていた著者による渾身作。

「自分は間違っていた」と告白した上で、中国による「100年マラソン」戦略を説明したもの。

トランプ大統領の対中政策の重要な助言者ともされている。

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 まずは、中国はアメリカに騙され続けていたとの告白から。

中国とつながりを持てば、広範な政治的問題について協力を引き出すことができると信じていた。貿易や技術供与によって中国の発展を後押しすれば、中国は地域および世界の秩序の問題について、歩み寄りを見せるはずだった。

中国では民主主義の種が村落レベルでまかれたという考えがなかば常識化していた。したがって、辛抱強く待っていれば、アメリカが圧力をかけなくても、中国の市や町で民主的な選挙が行われ、やがて地方選挙、さらには国政選挙が行われるようになる、と彼らは信じきっていた。

米ソ対立が深刻化する中、自然と米中の歩み寄りが見られたことがきっかけ。

ただ、筆者によるとそれすらも中国が意図する形に進めたとのこと。

中国は、自らが民主化するそぶりを見せて米国から様々な援助を引き出した。

 

そして、一部勢力に限られているとみられていたタカ派が、実は指導部に食い込んで、長期に渡る策を実行していた。

それが「100年マラソン」というもの。

これらのタカ派は、毛沢東以降の指導者の耳に、ある計画を吹き込んだ。それは、「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年にあたる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」というものだ。この計画は「100年マラソン」と呼ばれるようになった。

 そのために、有名な「韜光養晦」により、実力を蓄えていった。

 

この「 100年マラソン」について

「中国とアメリカの競争は『ピストルでの決闘』や『ボクシングの試合』と言うよりむしろ『陸上競技』と言うべきだろう。それは、『マラソン』のように時間がかかる。そしてマラソンが終わった時、地球上で最も高潔な強国、すなわち中国が勝者となる」

それは、軍事的な競争ではなく、あくまでも経済的な競争がメインとなる。

そして、その策は長い年月をかけて「囲碁」のように着実に包囲網を固めていく戦略となる。

 

この戦いのキーワードは、「勢」

これは、敵を操縦し、従わずにいられない状況を作り出して動かすもの。

敵は、自分で判断しているような錯覚を持って動く。

例えば、ニクソンの中国往訪は、筆者に言わせると、ニクソン自らが動いたのではなく、中国がニクソンのところにやってきたとのこと。

そして、キッシンジャーニクソンに対して、

「中国は英国に次いで、世界観がアメリカに近い国かもしれない」

と告げたとのこと。

 

さらに、中国は、アメリカを「覇」という。

「覇」は、その世界に軍事的秩序をもたらし、力をもってライバルを排除し、やがてそれ自身が力によって排除される。「tyrant(専制君主、圧政者)」と訳したほうがより正確だろう。

 「覇」とはどうも良い意味ではないようだ。

他者を跪かせ、追いつこうとするものに対しては、徹底的に叩く。

 

このような分析の中で、中国は米国に近づいた。

以下は驚くような真実。

レーガン大統領の在任中、米中が交わした軍事に関わる密約は、以前なら考えられなかったレベルにまで拡大した。米中は密かに協力して、反ソ連のアフガン反乱軍、クメールルージュ、アンゴラの反キューバ勢力に軍需品を提供した。米中は、ベトナムによるカンボジア占領にも対抗した。5万人のゲリラ兵の武装を含む、このカンボジア支援については…アメリカが中国から武器を20億ドル分購入し、反ソ連のアフガン反乱軍に提供したというものだ。キッシンジャーの回想録は、アンゴラでも米中は秘密裏に協力したと語っている

レーガン政権は、遺伝子工学、知能ロボット工学、人工知能、自動化、バイオテクノロジー、レーザー、スーパーコンピューター、宇宙工学、有人宇宙飛行に焦点をあてた中国の八つの国立研究センターの設立を支援した。

 米国は中国を、軍事的、経済的に支援。

これにより、ソ連は崩壊する一方、中国は急速に成長を遂げることに成功した。

 

しかし、そのような中でも、中国は国内では米国に対する対立を意識した政策を続けていたとのこと。

中国政府はその後、事実上、中国とアメリカの歴史を徹底的に「改ざん」しはじめた。その時代もアメリカは、中国の成長を支えつづけていたが、捏造された歴史では、アメリカはそのような表向きの姿とは別に、中国人に害を与えつづける悪魔のような側面を持つ国として描かれた。

日本についても同じような話がありましたが、米国も同一だったのですね。

 

そして、もう一つのキーワードが「殺手」

それは、中国の故事に出てくる、密かに隠し持つ一撃必殺の武器(棍棒らしい)で、それにより自分より遥かに強い相手を一撃必殺で打ち破ることができるものとなる。

現代で言えば、例えば、、、

強襲レーダーや、ハイテク兵器を備えた無線局、電子兵器による敵の通信設備の妨害、通信センター・設備・指揮艦への攻撃、電磁パルス兵器による電子システムの破壊、コンピューターウィルスを使ったソフトウェアへの攻撃、指向性エネルギ兵器の開発などである。

決して、見える形で軍備を増大して米国に危機感を煽るわけではなく、見えないところで兵器開発などを進めるということ。

米国の空母に対抗するためには、必ずしも空母でなくても良いということだろう。

 

以上のような中国の政策に対して、米国がどのように対応していくか、最終章に書いてある。

その中でも特に重要なのは、、、

我々が抱える最大の危機は、中国を過大評価し、中国に自らを過大評価させることだ。実際のところ、中国はまだアメリカのレベルには達していない。であるにもかかわらず、中国を過大評価してアメリカを怯えさせ、中国をうぬぼれさせるのは最も危険である。

とのこと。

 

【まとめ】

中国脅威論は色々とありますが、米国における対中政策の中心的役割を担った人物からの言葉で非常に重みを感じます。

特に、中国は軍事的ではなく経済的に覇権を狙っているというのは確かにそうだなと思えます。

また、ファーウェイやZTEについても触れられているのも気になりました。

本書は、中国の内情について書いたものではないため、中国を勉強する目的で買うとあまり参考にはならないかもしれません。

一方、米国がどのように中国を見てきたか、今どう見ているかを考える上では、一線級の作品だと思うので、足元の米中貿易摩擦を考える上で非常に参考になるかと思います。