ゴールドマン・サックスM&A戦記【☆】
ゴールドマンのM&Aアドバイザリー部門を率いた著者が書いた自伝的本。
NTTドコモのPHS事業再編から始まり、日産自動車とルノー、中外製薬とロッシュ、NKKと川崎製鉄など、錚々たる顔ぶれのM&A内幕を書いたもの。
まずは、ゴールドマンのカルチャーについて説明
仕事はできる、金は稼げる、ということが前提条件で、さらにそこから組織の中でマネージング側(管理職)として昇進していくには収益を稼ぐ能力に加えて、その会社が求めるさらなる能力、ゴールドマン・サックスの場合はチームプレー能力が必要ということだったのだろう。
しかし、この古き良きゴールドマン・サックスのカルチャーは、よく言われることだが、1999年に株式を上場してから、かなり短期間に変貌を遂げた。
同社の人々と仕事をすることは結構あった。
ただ、チームプレー重視というのは、知らなかった。
どちらかというと、99年以降のカルチャーの方がしっくりいく。
それでも、比較的プロパーを大事にする会社というイメージはある。
プロパーから偉くなった人は、本当に魅力的な人が多かった。
ちなみに、「プロフェッショナルの5年生存確率は50%ぐらい」とのこと。
「クビ」というよりも自ら退出していく感じに思えた。
一緒に仕事をした人物評がいくつか出ていたが、こちらが面白い。
まずは、一時期トランプ政権で時の人となったバノンから
それほど優秀という印象ではなかった。ただ、自己に対する期待と会社評価にギャップがあり、それを不満に思っている様子だった。
あらま。
どうもその後、会社とゴタゴタがあった模様。
その辺りは、本を読んでいただければわかる。
次にルービン元財務長官
ルービンは気さくな良い人だが、その後、アメリカの財務長官になるぐらいなので当然、無茶苦茶に頭が良く、時としてカミソリのような切れ味で周囲の人間を切ってしまうという一面があった。私にとっては、近づきがたい高貴な天才というイメージの人だった。
あまり接点はなかったとのことだが、上司として何度か話をする中での印象のようだ。
見た目から切れ者っぽい感じはするので、そのままということだろうか。
そして、ポールソン
根っからの営業マンだ。人当たりは非常に柔らかく、年配の経営者には可愛く振る舞い、よく好かれる。しかし、社内では非常にフェアだが、当然ながら生き馬の目を抜く大手投資銀行業界でCEOにまでなる人物なので、仕事の面では非常に厳しいところもあった。
この人も見たままの人ですね。
説明後半の「仕事面では非常に厳しい」というのが、顔から滲み出ている。
著者とは、だいぶ仲が良かったようだ。
最後に日本の経営に関して
日本の経営文化、特に正直に嘘をつかず、身を粉にして働き、会社全体で成長の果実を共有し、ひいてはこれを社会全体と分け合おうという思想は、世界に誇るべき日本の経営文化だ。
淡々と自信をもって、これまでの経営姿勢・経営文化を世界に示していくことで、日本はあらたな企業経営のグローバルスタンダードとなる価値観を世界に示す使命がある、と感じている。
日本の経営について、ポジティブに捉えているのがとても新鮮。
世界的に見て、日本の経営は稀有な存在で、それは誇るべきものとのこと。
そうでもない経営者もたくさんいそうだが、平均的に見ればそういうことなのだろう。
【まとめ】
M&Aの裏話を知りたいと思って読んだが、それについては期待するほど多くはなかったように思う。
ただ、著者自身が「若い人に読んでもらいたい」と言うように、仕事に対する姿勢や考え方は本当に刺激になる。
そう言う目線で本書を手にとってもらえば、自分を変えるきっかけになる本になるのだろうと思う。