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ビジネス書・相場関係書に関するファンドマネージャーの備忘的メモ

デジタル経済と税【☆☆】

税の専門家により足元の税の課題に関してまとめたもの。

題名の通り、デジタル経済における税の問題を整理している。

これ1冊読んでおけば、とりあえず足元の税の問題についてアップデートができる。

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まず最初に議論しているのは、プラットフォーマーなど多国間でビジネスを行なっている企業に対してどのように課税を行うかという問題。

実際に、企業名を出してどのように課税回避を行なっているかを解説している。

この中で驚いたのは、GAFAは、米国内で発生した収益については、米国政府にしっかりと納税しているということ。

米国外で発生した収益だけ租税回避を行なっている。

一番強いところからにはちゃんとショバ代を払って保護してもらっている。

 

GAFAなどデジタル企業が実際にどの程度税負担をしているかというと、

欧州委員会の調べによれば、デジタルビジネス企業の税負担率は9・5%で、伝統的ビジネスモデル(23・2%)の半分以下となっています

とのこと

なかなか深刻。

 

租税回避に伴う問題は2点

  • 消費国に入るべき税収が入ってこない
  • 競争条件の公平性

特に後者は、無闇に課税を行うと、同業でちゃんと納税している会社にも負担が及ぶ。

 

 

後半は、ベーシックインカムを中心にどのように収税を行うかという話に移る

BIについて、

興味深いのは、リベラルと新自由主義の双方の立場から主張されているという点です。…つまり左派は貧困対策として、右派は、執行に多くのコストや問題を抱える社会保障制度をスリム化し国家の規模を小さくするという考え方からの主張です。

このように、BIは、いわば同床異夢の提言なのです。

それが、ここ最近は状況がさらに変化してきました。AIの発達という新たな要因が加わり、シリコンバレーのIT起業家たちがベーシックインカムの導入を語り始めたのです。

 租税回避を行なっているIT起業家がBIを語るなどというのはギャグとしか考えられない。

 

加えて、収税の仕方について整理もしている

収税方法は、主に「所得」「消費」「資産」の三つ

それぞれの長所と課題を整理して今後の収税方法について検討している

 

その中で、所得税の引き上げについては否定的

OECD諸国の個人所得税最高税率を比較したものですが、すでに日本は高いほうから3番目となっています。人の移動が容易になっているなかで、最高税率をたとえば現状より10%程度引き上げることは現実的とは思えません。

所得税最高税率をたとえば5%引き上げて50%にしても、その増収効果は1000億円程度、10%引き上げて55%にしても2000億円程度だということです。

とのこと。

さらに、所得税引き上げは、効果が低いくせに、高納税者の他国への移動のリスクが高まる。

 

一方、資産税については、二重課税の問題などいくつかの課題を指摘しつつも、全体的には富の集中が進む中、世界的にその流れが強まっていると主張。

特にピケティの話を紹介

フランスで最も裕福な人物であるベタンクール夫人(系商品会社ロレアルの創始者の子女で、これまでの障害で1時間も終了についていないとされる)を取り上げ、300億ユーロ以上の富を持ちながら、申告所得は500万ユーロを超えたことはない、富の1万分の1しか所得は把握されていない

こういう話を聞くとカチンとくる。

 

資産税の話から無形資産課税(ロボットタックス)についても説明

AIを活用して新たなサービスや製品を生み出しマネタイズされる(商品価値を生む)元となる特許権著作権・商標・ノウハウなどの無形資産そのものに課税することが考えられないか、という問題意識です。

見えないものの課税というのは本当に大変そう

実際、筆者は以下3点が問題になるとしてている。

  1. 無形資産の定義
  2. 無形資産の評価
  3. 各国間の課税配分

1については、出来だけ広範に

2については、納税者と税務当局の情報の非対称性が問題

3については、前半の問題と深く関わってくる

 

【まとめ】

税については正直明るくないので、この本を読んで色々と勉強できた。

そういう意味では、初心者向けだと言える。

デジタル企業への税の問題は、本当に深刻と感じる。

GDPは国の生産規模を本当にちゃんと計っているのかという話は良くあるが、それよりもよっぽど深刻な問題だ。

税について興味を持っている方も、そうでない方も、読んでみることをオススメしたい。