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現代アメリカ政治とメディア【☆☆】

なぜトランプ大統領が誕生したのか。

その辺りをメディアの存在を中心に語ったもの。

様々な調査をベースに説得的に話を進めていて、今後の議論を進める上で参考になる。

 

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なぜトランプ大統領は、暴言を吐いても支持率が下がらないのか。

一つの答えとして、本書では保守とリベラルの分極化が影響しているとしている。

2017年には、民主党支持者の81%が共和党に対し「否定的」であり、44%が「非常に否定的」である。同様に、共和党支持者も81%が民主党に対し「否定的」で、45%が「非常に否定的」である。

対立政党に対し「非常に否定的」な意見を持つ人の割合が、共和党民主党ともに1994年の2倍以上に膨れ上がっていることが特徴的だ。

なぜここまで分極化したのか?

「ニワトリと卵」の関係にはあるものの、メデイアの先鋭化が影響しているとのこと。

特筆されるのが、メディアの独立性の大きな揺らぎである。ケーブルニュースで顕著だが、視聴層に合わせて、「保守」と「リベラル」のいずれかの政治的立場を明確にし、厳密な報道というよりも、アンカーの主観的な意見がかなり入り込んでいる「政治ショー」的な番組が急増している。FOXNEWS(保守)とMSNBCやCNN(リベラル)では同じ事実もまったく異なってみえてしまう。

もともと、主要メディアは、緩やかな「リベラル・バイアス」があった。

このため、保守層にとってはこれまで自分が見たい番組というのがなかった。

しかし、規制緩和が進むことで、イデオロギー色が強い政治情報番組が増加したとのこと。

 

加えて、リーマンショック以降にメディアの淘汰が急速に進んだことも影響している。

これにより、メディアが生き残り戦略として、政治情報の内容を消費者向けにマーケティングして提供するようになった。

 

トランプ政権の誕生は、この辺りが影響しているとしている。

様々な調査結果を使ってその辺りを説明している。

例えば、「大統領選挙後、有権者が主な情報源としたメデイアはどこなのか」の調査として、

最も多かったのはケーブル放送のFOXNEWSだった。全投票者の19%を占め、そのほとんどがトランプに投票していた。

とのこと。

さらに、トランプ支持地域へヒアリングを行い、実際にどのようにメディアと接しているか調査している。

基本的に、既存メディアを批判し、FOXNEWSだけを見ているとの回答が多いのだが、その中でも、一人の中年女性へのヒアリングが印象的。

彼女の場合、当初は「FOXNEWSをみている」という認識はほとんどなかったが、筆者が質問するようになり、「FOXNEWSをみていることに気づいた」。

そこまで一部の地域では生活に入り込んでいるということなのだろう。

 

このような状況の中で、メディアの中心にいたのがトランプということだろう。

実際、CBS会長のレスリー・ムーンベスの発言が興味深い。

「(トランプ現象について)こんなのはみたことがない。我々にとっては良い年になる。ドナルド、このままの調子で行け」

アメリカにとって良くないかもしれないが、CBSにとってはまったくすばらしい」

まさにトランプは、「メディアが生み出したモンスター」となる。

 

ここでまた面白い調査がある。

2016年秋、政治家の発言の真偽をチェックしているウェブサイト、PolitiFact編集長のアンジー・ホランにインタビューしたが、トランプの重要な発言の7割が虚偽もしくは虚偽に近いと話した。

ホランによれば、ヒラリー・クリントンの場合は、虚偽または虚偽に近い確率が26%で、これは政治家の平均的な数字だという。トランプの虚偽発言の多さは、調査開始以来最高のレベルだった。

政治家の発言の4分の1が「虚偽に近い」というのも驚きだが、トランプ発言の7割が「虚偽に近い」というのは面白い。

リベラル・バイアスがありそうな調査ではあるが、まぁそういうことなのだろう。

 

そして、メディアの分極化に関わり、以下のような様々なキーワードが紹介されている。

  • フェアネス・ドクトリンの廃止
  • イコールタイム
  • ゴールドウォーター・ルール
  • エコチェンバー
  • フィルター・バブル

その中でも、フェアネス・ドクトリンの廃止については、これにより政治トークラジオが急成長し、イデオロギー色の強い「過激な」番組が増えたとのこと。

2012年のピュー・リサーチ・センターの調査では、ケーブルニュースの放送時間全体の中で意見に基づく報道の割合はCNNで46%、FOXで55%、MSNBCで85%に達している。解説と意見は放送の63%を占め、事実の報道(37%)よりもはるかに多かった。ケーブルテレビが視聴率を稼ぐために、「事実」よりも「意見」を重視していることがわかる

 

なお、日本のフェアネスドクトリンに当たる、放送法4条の話にも少し触れている。

日本の場合は、放送法4条がまだ効いているため、そこまでメディアが先鋭化していないとのこと。

 

【まとめ】

今後の米国の政治について考える上で非常に参考になりました。

トランプ大統領の誕生は、決して偶然ではなく、今後も第2のトランプが生まれてきてもおかしくない状況に感じました。

翻って日本については、まだ大丈夫そう。

ただ、日本もネットが全盛となりつつある上、放送法4条撤廃の議論も一部で出ているので、先々はわからないのかも。