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ビジネス書・相場関係書に関するファンドマネージャーの備忘的メモ

チャイナ・イノベーション【☆☆】

コピー国家という発想はもう古い

すでに日本はあっという間に追い越されている

少なくとも、デジタルの分野では

その危機感を感じさせる本

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まずは事実確認から

アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)のテクノロジー・レビュー誌が選出した2017年の「最も賢い会社50社」に、中国企業が7社選ばれた。国別ではアメリカの31社に続いて二番目となっている。

残念ながら日本企業は1社も選ばれていない。1社もだ。

すでに日本はデジタル分野では中国に追い抜かれているという認識をまず持つことが重要だということ。

 

では、なぜそんなに急速に中国は「進化」できたのか。

筆者によると、「第三者決済」にあるとの見方。

当初、クレジットカードの保有率の低さに問題があったが、、、

・・・こうした環境下で銀行と消費者のあいだの決済を仲介する「第三者決済」という仕組みが生まれた。その代表格が、アリババの決済機能を担う支付宝(アリペイ)だ。アリペイは利用者と銀行口座のあいだの安全で便利な決済を実現し、ネットショッピングにおける決済問題を解決した。

日本で普及している電子マネーのSuicaに使われているNFC方式と違い、QRコード方式では利用者側は携帯電話の種類に依存せず、会員IDさえあれば、アプリをダウンロードするだけで利用できる。さらに、(1)ポイント還元や割引などの特典をアプリ経由で受け取れる、(2)決済履歴が残る、(3)紛失や盗難の防止──の3つのメリットがある。

特に、最大のポイントは利用者のデータを蓄積することにあった。これによって、

簡単な本人認証と決済が可能なモバイル決済は、キャッシュレス化の進展を後押しするだけではなく、さまざまな分野で変革を促している。その代表例が、自転車などのシェアリングサービスの急成長である。

サービスの拡大でデータが蓄積され、さらにサービスが広がるといった雪だるま方式で拡大していった。

そこに中国国内だけに留まらず、外資系の資金が流入して急速に進歩していったとのこと。

 

つまりは、中国のデジタル革命のきっかけを作ったのは、アリババとテンセントなのだろう。

この2大巨頭については、その後一つの章を使って生い立ちを説明している。

特に、アリババとeBayとの戦いは興味深い。

2013年6月、eBayは中国本土のEC大手、易趣網(eachnet.com)を買収して、C2C市場でシェアの80%を握った。そのeBayの圧倒的な状況が、2004年にアリババが決済サービスの支付宝(アリペイ)を導入したことをきっかけに一変する。3年後、eBayはシェアを8%未満にまで落とし、中国市場から実質的に撤退する羽目になった。

すごいに尽きる。

先行者利得の高いデジタル産業で80%のシェアを覆すとは恐るべきアリババ。

逆転できた理由は、筆者によると決済サービスの方向性の違いにあったのではないかとのこと。

勝敗は、決済サービスで決まった。eBayはクレジット決済かネットバンキング決済をベースにした前払い方式という欧米では一般的な方法を採用していた。結果的に、このビジネスモデルは中国市場には馴染まなかった。

アリババの馬雲はこうしたネット決済に関する中国独自の課題に気付き、米国のPaypal(ペイパル)の仕組みを参考に、アリペイというエスクロー(第三者預託)サービスを中国で最初に導入した。 

本当に国家の意図が入り込んでいなかったのだろうか。

その辺りは、内容をそのまま信じることはできないけど、上記理由がきっと大きいのだろう。

少なくとも、中国の実力は確実に高い。

逆に日本が真似しなければならない状況だろう。

 

別の話で述べているところだが、アップルのティム・クックは、ウーバと戦い勝利し世界最大のライドシェアサービス企業となった滴滴出行について、以下の通り語っている。

滴滴出行は中国のiOS開発者コミュニティから生まれたイノベーションのお手本。滴滴出行が築いた事業や同社の優れた経営陣にきわ得て強い印象を受けており、彼らの成長を支援することを楽しみにしている」

 米企業が中国デジタル企業を評価している話は他にも出ていた。

資金提供も厭わず行っており、この分野での米中の繋がりは強いように感じる。

 

筆者は中国企業の文化についても色々と言及している。

アリババやテンセントでは、ビジョンの共有やパフォーマンスの向上に注力している。若く優秀な人材にストックオプションを与え、「世の中を変えたい」というビジョンを共有し、やる気を引き出している。アリババは社内で合同結婚式を開催し、端午節にチマキを配ったりして、会社への帰属感を引き出している。

 働き方改革を推進している日本とは方向性が違いますな。

別に中国の働き方を肯定はしたくはないが、急速に成長するデジタル企業では中国企業のやり方を取らないと太刀打ちできないように思う。

 

また、女性の社会進出についても進んでいる

アリペイが2013年 11 月、日本市場に進出しようとした際、筆者はアリペイの国際事業の担当者と一緒に活動した。アリペイの国際事業部の役員から担当者までほとんどが 30 代か 20 代の女性で、権限を委譲され、生き生きとして自信に満ちていた。日韓の統括責任者は産休からわずか3カ月で仕事に復帰し、海外出張も辞さない女性だった。日本の金融機関を訪問した際、若い女性が交渉を任されていることに、男性ばかりの日本側担当者は驚きを隠せなかったようだ。

これは、中国の一部の企業に限られた話ではあるだろう。

それでも、特段、女性取締役比率を増加させるなどの目標があるわけではなく、単純な実力主義の結果として採用されていることが凄い。

実際、子育て中の場合には自宅で会議を行うなどの話も掲載されている。

 

さらにこの後、ユニクロや メルカリの中国経済への食い込み方に関する話が続く。

この辺りも面白い。

いかに中国デジタル企業のスピーディーさについていくか、それが重要ということになる。

 

【まとめ】

中国デジタル企業の「今」がわかりとても勉強になります。

この辺りが気になる方は、絶対に読んで損はないと思います。

 

中国の面白いところは、一方で国営企業の存在が相変わらず大きく、さらに共産党による政治管理・情報管理が厳しいということ。

全く相反する二つの状況が同時進行的に進んでいることに、今後どうなっていくのか興味が尽きないです。

一つ感じたのは、米中は政治的に対立する一方、デジタル経済的には相当融合が進んでいるのではないかということ。

日本は、だいぶ出遅れてしまっている感が強いが、両国の間で上手く立ち回っていくしかないように思う。

少なくとも、中国を新興国としてみる時期は完全に終わっていると思いマス。